『向き合う事』を教えてくれたのは、夫だった。
夫と出逢った頃、私は自分が不快に思うことを口に出して相手に伝えることが出来なかった。
かといって作り笑顔で、感情までも押し殺すことも出来ない女だった。
ムスッとして黙ってしまうのだ。
付き合って一年程した頃、私は彼に迫った。
将来の事をどう考えているのかを。
そして夫はこう応えた。
「俺はお前の事が何も分からない。」
一年も経ったのに、何が分からないというのか。私は意味が分からなかった。
すると彼は、
「お前は怒った時に何も言わない。黙ってしまう。それではお前が何が嫌なのか、俺は何を気を付ければいいのか分からない。」
そうなのだ。
私は言えなかった。
怖かった。
言って嫌われるのが怖かった。
だからぐっと言葉を飲み込んでしまう。
昔からずっとそうしてきた。
もう一人はいやだ。
一人になりたくない・・・
ぐっと飲み込み続けたその言葉達は、いつしか飲み込むことをしなくても平気になっていった。
どんなに待っても外に出ることのない言葉達。
いつしか、”出よう”とすることさえ、諦めてしまっていた。
そして彼は続けた。
「これから先、お前が気持ちを言わないのであれば別れる。
でも言うのであれば、俺は別れない。」
私は衝撃を受けた。
自分の気持ちを言えば別れないなんて・・・
色々な恋愛本を読んできたが、感情を相手にぶつけてはいけない的な事がたくさん書かれていたのだ。
だから、頑張って感情を自分の中に押し込めようと努力していたのに・・・
本に書かれていたこととは逆の事をして欲しいという人間がいるなんて・・・
そこから私の戦いは始まった。
長い間、外に出してこなかった負の感情の言葉は、そう簡単には出てきてはくれなかった。
喉まで言葉が来ているのは分かるのに、言葉が音で出てこない。
ためしに口を開けてみたが、それでも出てこない。
不思議な感覚だった。
それを見ていた彼は、
「ゆっくりでいいから。焦らなくていいから。言葉で言えなかったら、文字でもいいから。」
そう言って待ち続けてくれた。
言葉にできるようになるまで、半年くらいかかっただろうか。
この経験のおかげで、なんでも言える夫婦関係になった。
『何でも』とは言ったが、長い時間夫婦でやっていく為には、時には不必要な言葉は口にしない事も大切だと思う。
お互いの絆作りに必要な部分は、良い言葉も悪い言葉も含め、たくさん言葉にして伝え合う。
時には自分が我慢したり、これは我慢しない!
と相手に甘えたり。
『向き合う』事は大変な事だと思う。
相手の負の感情もまともに受けなければいけない。
その面倒さに負けて、自分が一方的に我慢している人も多く目にする。
(自分が向き合いたくても、相手にその意思がなければ、いくらやっても無駄だが)
もしお互いに向き合える人間同士であった場合、
その先は強い心の絆で結ばれるだろう。
隣にいて一番安心していられる居場所を。
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