「今の声は、本当のあなたの声じゃない」
そう言われ、私はびっくりした。
子供の頃から歌が好きで、一日中歌っていられた。
そして歌手になりたかった。
大きなホールで、思い切り自分の歌声を響かせたかった。
思春期の頃、親に内緒で受けた事務所のオーディションに合格したが、
親は「うん」とは言ってくれなかった。
親の反対を押し切ってまで突き進む勇気が、その時の私には無かった。
それからたくさんの月日が過ぎ、結婚、そして子供が生まれ、育児の日々が始まった。
私は次第に音楽から遠のいていった。
初産から10年。
やっと子供達に手がかからなくなり、自分の時間が作れるようになった。
そんなある日、友人からジャズライブのお誘いをもらった。
私は歌を歌うのは大好きだが、人が歌うのを聞くのには興味がなかった。
だから断った。
しかしその後、ふと考えた。
”私って、本当に興味がないのだろうか・・・?”
この気持ちを「興味がない」と表現していいのか?
そこが引っ掛かっていた。
そしてハッとした。
”私、「興味がない」のではなく、「見たくない」んだ。”
と。
舞台の上で気持ちよさそうに歌っている人を、私は客席から眺めている。
想像しただけで、心がギューっとなった。
”くやしい。うらやましい。私だって・・・”
私は「嫉妬」していることに気付いた。
その「嫉妬」の感情に気付いたからには、私は舞台の上で歌うことが”できる”と思った。
以前に、
『人は、”自分が持っている未開発の能力”に触れると、嫉妬する』
と教えてもらったからだ。
私は久しぶりに、カラオケに行って歌ってみた。
初めての一人カラオケ。
勇気がいった。
周りはワイワイ友達と来ている中で、私は自分一人・・・。
他者の目を気にして自分の”したいこと”、今までいっぱい諦めてきた。
もう、諦めたくない!
夫は私によく言った。「他人なんて関係ない。自分がやりたければやればいい。」
私は夫のそういう所が好きだ。私は持っていなかった”勇気”を持っている人。
今までの夫の言葉が胸に響く。
”人なんて関係ないんだ。きっと何とも思っていないよ。だって、私は歌いたいんでしょ?
自分がやりたい事、やればいいんだよ。ここは勇気を出す時だよ。”
そして私は高い壁を一つ乗り越えた。
しかし、結果は愕然とするものだった。
以前は気持ちよく歌えていたのに、思うように歌えない・・・どうして・・・?????
私はボイトレのレッスンを受けることを決意した。
レッスン数回目。
先生はびっくりするようなことを私に言った。
「今、歌ったり話したりしている声は、本当のあなたの声じゃないと思う。
あなたの顎の骨格を見ても、もう少し低い声が、本当の声だと思うよ。
今は喉をキュッとしめて、一生懸命声を出している感じ。お腹から出てくるそのままの声じゃないよ。」
そして先生はこんなことも言った。
「無意識のうちに、本来の声ではなく、違った声を作り出してしまうことがあるの。それは何かから自分を守るために無意識にやっている事が多く、その声で長い年月を過ごしていると、声の出し方が体に染み付いてしまう。本当の声を手に入れるには一度崩す必要があるね。」
びっくりしたのと同時に、思い当たるところがいくつかあった。
昔から、私の声は高いと言われていた。
でも小学生の時、人前で本読みをしていると、だんだんと声がかれてくる。
大人になって飲み会に行ってしゃべっていると、だんだんと喉が痛くなり、声がかすれて出なくなってくる。
きっと喉を締め付けているのだろう。
しかし最近、しゃべっている時に低い声の時がある。
私は歳のせいだと思った。
歳を重ねていけば地声が低くなっていくイメージがあったからだ。
思い返せば、低い声に気付いたのは一年前くらいから。
一人でいる時や、家族といる時。
つまり、リラックスして本当の自分でいられる時だ。
そして、私の人生の大きな課題をクリアしたのもその少し前。
私は先生に自分の”人生の課題”の話をした。
母と向き合い、『大きな愛』を受け取れたこと。
すると先生は自分の話をしてくれた。
先生も本当の自分の声より低い声を出していた。それを戻すのに、泣きながら”人生の課題”に向き合っていったことを。
ボイトレに来る人で、そういう人は多いらしく、先生は初めて会った時に、
本来の自分で生きている人と、鎧をかぶっている人の見分けがつくらしい。
私からは、鎧を着ている感じを受けず、本来の自分で生きている感じを受けていたが、
声は絞り出すような息苦しさを感じていた。
今回の話を聞いて納得したと先生は言っていた。
「生き方は本来の自分を取り戻しつつあるが、声が、まだ昔のままをひきずっているんだね。大丈夫だよ。私も取り戻せた経験があるから、取り戻せると思うよ。その人の本当の声で歌った歌には、人の心に響くから。」
人生の課題が、声にまで影響しているなんて、本当に驚いた。
きっと今、気持ちよく歌えないのは、心と声のステージが違っているからだろう。
今までは心と声が同じステージにいたから良かったのだ。
少しずつ、本来の声が出てきているのかもしれない。だから歌う時に、今までの声と本来の声との2つあるから、どう切り替えたらいいのかわからず、ぐちゃぐちゃになっている。
そんな感じがする。
それでも、今の私には夢がある。
自分の歌のアルバムを出したい!
自分の人生の歌。
アルバムの1曲目は幼少期。曲目が進むにつれ、私が大きくなっていく。
その時々で心が感じていた言葉を、歌詞に書きたい。
その当時は言葉で発することが出来なかった、言葉達。
全部歌詞に載せて私の歌声で外に出したい。
”きっと実現させるんだろうなぁ~”
私はそう感じる。
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